2016年10月25日火曜日

報告書 : 警部補 遠藤一(はじめ)

「継続捜査を続けている飲食店における放火事件における容疑者と思わしき人物への接触を試み、当時の様子を詳細に伺うことが可能となりつつあります。

しかしながら現段階で身元不明の遺体については事件直後より遺留品他現場より得られる確証が少なく特定に至っておりません。

今後の継続捜査は中田悟の身辺調査の継続。
カフェ経営者、河村美幸の身辺調査を中心に再捜査を行う方針とする。

当時最も重要参考人であった中田悟の事件当日の行動にとらわれることなく、その周辺人物に広げ状況を把握して行く。

この件については、事件後調査を行なっていたフリージャーナリスト三上涼子から任意で事情を聞く。この件について取材と称し違法な調査を数多く行なっていることが把握できており、何らかの独自情報を持っていることも考えられる。」


広島県警、深夜の刑事課
警察署内は24時間慌ただしいかといえばそんなこともない。午前3時、長机の並ぶ会議室、ふとした静寂の中、一人巻きタバコを咥え、なれないてつきで古びたワープロを叩く男の姿があった。

事件発生を告げる緊急入電。部屋に設置された赤色灯が回り館内放送がけたたましく流れる中、男はゆっくりと煙を吐き出し、報告書のプリントアウトを始めた。

男が廊下を走る同僚の刑事たちに視線を送ると、新人刑事と目があった。
配属されたばかりのその若者は、暗い部屋でワープロの液晶の灯に浮かび上がる男の辛辣な表情に思わず足が止まった。

眉間と煙。

新米の頭を他の同僚が叩く「この人はほっとけ、ずっと一人で別件捜査中だ。特別なんだよ。遠藤警部補は。」

男の名は遠藤一(はじめ)

事あるごとに悟の前に現れては消えていた、あの男である。

気味悪そうに去る新人刑事の背中を、遠藤は不敵な笑みで見送りこうつぶやいた。

「今夜、お前も迷宮に迷い込むかもな、俺みたいに。」